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札幌地方裁判所 昭和23年(行)6号 判決

原告 吉田一太郎

被告 国

一、主  文

被告が昭和二十三年七月一日付買収令書により別紙目録記載の土地につきなした買収処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として

第一、昭和二十三年二月九日当時の北海道農地委員会は原告所有の別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)につき当時施行の自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三十条第一項第一号により農地以外の土地で農地の開発に供しようとするもの(以下未墾地と略称する)として買収計画を樹立し同年二月二十日北海道告示第四十八号を以て、この旨公告した。よつて原告は同年三月八日、この買収計画について前記道農地委員会に対し異議の申立をなしたところ右委員会は同年四月一日前記申立を棄却する旨の決定をなした。そこで原告は同年四月二十二日右決定について北海道知事に対し訴願を提起したところ、右知事は同年五月十九日前記訴願を棄却する旨の裁決をなし、次いで同年八月二十七日付で同年七月二日附本件土地の買収令書を原告宛に発送し、原告は同年九月十日頃右買収令書を受領した。

第二、然しながら昭和初年頃、牧畜業者であつた原告先代吉田権太郎は牧場として使用する目的で本件土地を当時の所有者、訴外烏森亘一から借り受け年々馬匹六十余頭を放牧して来たところ、昭和十一年三月原告において右訴外人より本件土地を買い受け引き続き牧畜経営に使用した来たものであつて、地目は原野となつているが実況は完全な牧野であるから被告がこれを未墾地としてなした買収は無効である。

第三、仮りに本件土地が牧野でなく、未墾地であるとするも開墾不適地であるから本件買収は、違法であつて無効である。蓋し本件土地はいわゆる勇払原野の中心でその全体に亘り地表三尺以上の火山灰地帯でありその土質は四級土性に属し、これを農耕地として使用するには少くとも同地上に平均五寸以上の沾土で客土を施さねば農産物の生産は絶対に不能である。このことは本件土地が室蘭線遠浅駅から三粁、同線安平駅から四粁、千歳線美美駅から五粁という地点にあつて、本道中最初に交通が開けた要所にあるにもかかはらず、今日まで本件土地一帯が農耕地に開拓されなかつたことや、本件土地の南側に直続する松田牧場が昭和二十三年本件土地と同様に未墾地買収計画の対象とされながらも前記の如き農耕不適地であつたため遂に買収されなかつたことからみても明らかであるからである。

第四、そもそも自創法第三十条によれば政府が未墾地を買収し得るのは自作農創設を目的とする場合と土地の農業上の利用を増進するため必要な場合との二つに限られる。然るに被告が本件土地を買収したのは右の何れの場合にも該当せず、被告自らが耕作して馬鈴薯の原々種農場を経営し、農耕適地となればこれを従業員に売渡すためのものであつて、本件買収処分は未墾地買収の目的を逸脱し違法なものである。従つて、右第二、第三の理由がないとするもこの点からして本件買収は当然無効というべきである。

よつて、本件買収処分の無効を確認するため本訴に及ぶ。

と陳述し、被告の主張に対し

(一)  本件土地に有価木として濶葉樹一万二千余石が生立しておつたことは認めるがその面積は僅少であり、うつ閉度は三十パーセント以下で林地という程のものではなく、本件土地は牧野であつた。

(二)  仮りに被告主張の如く自創法の改正法令施行前は牧野は未墾地の中に包含され未墾地買収の規定によつて買収されていたとしても、改正法令施行後は牧野買収の規定によつて買収すべきである。然るに被告は本件土地を未墾地買収の規定によつて買収したから買収は違法であつて当然無効といわなくてはならない。

と答えた。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の答弁として訴却下、本案に対し請求棄却の判決を求め、

先ず本案前の抗弁として

本訴は被告のなした未墾地買収処分の無効確認を求めるものであるが元来自創法に基ずく行政処分について不服のある場合は当該行政処分の取消を訴求すべきものであつて、無効確認を訴求することは許されないものというべきである。而して、原告が本件行政処分のなされたことを知つたのは昭和二十三年九月十日で、本訴の提起は同年十一月十九日であるから仮りに本件買収処分の取消を求めるものとしても出訴期間を遙かに経過しており、ひつきよう不適法なる訴で却下すべきものである。

と陳述し、本案に対する答弁として

請求原因第一項はこれを認める。第二項中本件土地が牧野であつたことは否認する。その他は不知、第三項は否認する。第四項中、自創法第三十条の規定により政府が未墾地を買収し得るのは原告主張の如き場合に限ること並びに被告が現在本件土地において、馬鈴薯原々種農場を経営し、農耕適地となればこれを従業員に売渡す目的であることはいずれもこれを認めるが、その余は否認する。

元来本件土地には有価木として北海道農地委員会が買収した一万二千五百余石の濶葉樹が生立し、そのうつ閉度は三十パーセントを超えていたから牧野でなく、未墾地で且つ、開墾不適地であるから自創法第三十条第一項第一号により買収したのは適法である。

仮りに本件土地が牧野であつたとしても本件土地の買収計画が樹立されたのは昭和二十二年法律第二四一号及びこれに基ずく同法改正施行令並びに同施行規則が公布された昭和二十三年二月十二日以前の同年二月九日であつて、当時は牧野買収の規定がなく、牧野は未墾地の中に包含され、牧野は未墾地買収の規定によつて買収できるものと解釈されておつたものである。而して前記改正法令には右の如き場合爾後の手続を牧野買収の規定によつて行うか、未墾地買収の規定によつて行うか定められていないから、本件土地の買収計画樹立後の手続も依然未墾地として行はれ買収処分を了したもので何ら違法のものではない。

次に自創法第三十条第一項にいわゆる「自作農を創設するため必要があるとき」とあるは、同法第一条に掲げる目的に照応するものであつて、直接に自作農の創設に供すべきものを買収する場合の外、広く指導農場等自作農の創設を促進するため、直接必要な施設に供すべきものを買収する場合をも含む趣旨と解すべきであり、本件土地を馬鈴薯原々種農場とするため買収したのは右後段の場合に該当するものであつて何等右法条の目的を逸脱するものでないと述べた。(立証省略)

三、理  由

昭和二十三年二月九日当時の北海道農地委員会が原告所有の本件土地につき、自創法第三十条第一項第一号により未墾地として買収計画を樹立したこと、その後、原告主張の日時にその主張の如き買収計画の公告、これに対する異議の申立、異議申立棄却決定、北海道知事に対する訴願、これに対する訴願棄却の裁決及び買収令書の交付があつたことは当事者間に争がない。

よつて先ず被告の本案前の抗弁について判断する。

被告は自創法に基ずく行政処分について不服のある場合は当該処分の取消を訴求すべきものであつて無効確認を求めることはできない旨主張するけれども斯く解すべきなんらの理由も存しないから爾余の点を判断するまでもなく被告の本案前の抗弁は失当で採用の限りでない。

次に進んで本件土地が牧野であるか否やについて判断する。成立に争のない乙第一号証の一、二、検証の結果、証人邨中信三の証言並びに原告本人尋問の結果を綜合すれば、本件土地はもと訴外烏森亘一の所有であつて、昭和初年頃、牧畜業者であつた原告先代吉田権太郎が右訴外人から牧畜経営の目的で借り受け、爾来約十年間、これを家畜の放牧、採草の目的に供して来たこと、その後、原告が前記訴外人から同様目的で本件土地を買い受けて引き続き買収当時まで、ここに五、六十頭の放牧したりこれから牧草を採取したりしていたこと、本件土地には家畜の飼料となるべきかや、笹等が多く生立し、且つ地形が適当に起伏して、風よけとなる場所や又中央に川もあつて家畜の放牧、採草地として好適の土地であることが認められるから本件土地は買収当時牧野であつたと解すべきである。なるほど、本件土地に有価木として濶葉樹一万二千余石が生立していたことは当事者間に争のないところであるが、この一事を捉えて本件土地を牧野でないということはできないし、他に右認定を覆すに足りる証拠は存在しない。そこで本件牧野を未墾地として買収することの適否を考えてみるに本件土地につき買収計画の樹立された当時施行の自創法第三十条第一項第一号にいわゆる「農地以外の土地」とは山林原野等を指称するものであつて牧野はその有する社会的機能から、これをここに包含させない法意と解するのが相当である。このことは昭和二十三年二月十二日施行の昭和二十二年法律第二四一号及びこれに基ずく同法改正施行令並びに同施行規則により始めて牧野買収に関する規定の新設されたに徴しても窺い知ることができるのである。されば、本件土地が牧野であるにかかわらず、右改正前の自創法第三十条第一項第一号によりなされた本件買収は法律の認容しないもので、当然無効といわなくてはならない。而して、原告が本件買収の無効を主張するに対し、被告が結局においてこれを争うものであることは弁論の全趣旨に徴し明白であるから、原告にこれが無効確認を求むる正当の利益があることはいうまでもない。

よつて、原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく正当であつて、これを認容すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 猪股薫 中村義正 古川純一)

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